2011年5月27日金曜日

アフガニスタンと旅あるある発言と文化人類学的視点

 この前、ぺシャワール会代表・中村哲さんの講演を聞いてきた。
ペシャワール会(http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/)とは、日本人医師中村哲さんを中心に活動するNGOで、元々名前の通り、パキスタン・ペシャワールを拠点を活動していたが、治安の悪化により、現在はアフガニスタン・ジャララバードを拠点としている。自らアフガニスタンに入り医療活動を行い、また不毛な大地と付き合い大幅な食糧生産増産に貢献している、中村哲さんは、前々からとても尊敬していたし、講演を最も聞いてみたい方の一人であったので、札幌に来られたことに感謝している。
 それにしてもすごい集客力だった。エルプラの大きいホールで立ち見の方もいたし、資料は全く足りないほどだ。学生ちっくな人も多かったけど、中村さんの同世代の年配の方がとても多かった。
 
今回の講演で特に心に残ったことというと、、、
・自然との付き合い、人との付き合い
 中村さんは、アフガニスタンの過酷な自然の中、長い間かけて不毛の大地を食糧生産ができる緑豊かな農地にされてきた。異常気象や洪水、様々な問題がたちはだかり、相当辛抱強くここまで来られたのかなと感じた。肝に命じられていたことは、常に「想定外のことが起こるという想定」をするということ。だから何が起こっても決してめげずに対処されてきたのではないか
 また、アフガニスタンでは人とのトラブル、悲しいことも多かったらしい。それでも、絶対に人を大切にする、裏切られても自分は絶対に裏切り返さない。この精神こそ、リーダーとして有るべき姿なのだろう。現地で絶大の信頼を持たれている中村さんの言葉は本当に説得性が強かった。
・何にでも好奇心を持ち、何でも何かの拍子で自分に役立つ可能性を秘めているということ
 洪水で橋が壊れてしまった時、増水して水があふれてしまった時、中村さんはアフガニスタンの川で、出身の福岡県で子どもの時よく遊んでいた筑後川の水門のシステムのアイデアを採用して実践されたそうだ。子どものころよく目にしていて疑問にもっていたのがきっかけだそうだ。このエピソードはかなりドラマチックで感動してしまった。今無意味に思えることでも将来何かの拍子で生きるかもしれない。だから何にでも好奇心を持ち、学ぶ姿勢というのを持ち続けたい。
 
 思い返すとたくさんあるのだが、特に聞いて良かったなと思うところを。
ある人が質問で、タリバンについて中村さんはどう思いますか?意見を聞きたいです。
というようなことを聞いた。
 これは良くない、とかこうあるべきといった中村さんの持論があるのかなと思っていたが、中村さんは、自分たちの価値観で他のことを決めるのは良くないし、タリバンのやり方に問題があるとか、アフガンにおける女性への扱いが悪いとかは決められないと仰っていたところに強く好感を持った。
 そもそもタリバンというのは、アフガニスタンの慣習法を強く尊重している聖戦士たちの集まりであり根は誠実なのだ。このことは「カブール・ノート 戦争しか知らない子どもたち 山本芳幸著」を読んで深く学んだことなのだが、中村さんも同じようなことを言われていた。ちなみに上の本はめちゃくちゃお勧めだ。そしてアフガニスタン人は、外国人の干渉を強く嫌うというきらいがあるという。そして、タリバンはやりすぎだというアフガン人の声は多いそうだ。
 少し話がそれたが、中村さんが文化人類学でいう「文化相対主義」的考え方を持ち合わせながら行動を起こされてれているところに、さらに尊敬の念を持った。
 ということで、今回の講演は今までの中でも大変有意義すぎた。何を聞く時でも、相手がどんなに有名で、どんなに権威がある人でも、常に批判精神を持って聞くことを心がけているが、今回は純粋に感心させられてしまった。わざわざ札幌までお越しいただいて貴重なお話を頂いて感謝している。
 
「文化相対主義」とは簡潔に言うと、民族の生活様式そのものを文化として捉え、その独自性と尊厳を認める立場のことである。しばしば、発展途上国における国際協力活動において、開発経済学の立場と文化人類学のこの立場でもめることがあり、今まさに開発経済学と文化人類学両方を勉強している僕にとってはここは最も興味深いところである。ちなみに僕は文化相対主義という考え方を強く尊重したいと今は考えている立場である。実際フィールドに出ないとわからないことは多いと思うけれど。
この対立の非常に興味深い例がこれである。ここでは中央アフリカ・コンゴ民主共和国が舞台となっている。興味がある人は是非。
 
 そして、文化人類学に絡んだ旅あるある。文学部の文化人類学の授業で知った話だ。
 よく、発展途上国などでボランティアなどをしてきた若者が、「子どもたちがかわいかった!!!!」とか「彼らは貧しいけど目が輝いていて幸せそうだ!!!!」というようなことを言っている。この手の言葉はよく聞く話なのではないか。どさんこNICEの説明会とかでいろいろ体験談を聞いていても、よくいろんな人が言っていた。
 挙句の果てに「それに比べて日本の子どもは暗い」だとか不条理な偏見で喋る人もたまにいる。これは論外だとして、上のような発言は文化人類学的に説明できるのだ。最近この理論を学んでなかなか面白かったのだ。
 文化進化論という理論の比較法という考え方なのだが、「欧米(先進国)の過去の姿=未開(開発途上国等)の現在の姿」というように思いこんでいて、野蛮→未開→文明という一連の流れでどこも成長するのだという進歩の尺度を持つ考え方。つまり最も簡潔に言えば、人類の同一性を確信しているということだ。
 そして本題の、先程の「発展途上国でよく聞く発言」も、この比較法によって説明すると、これは、過去の自分たちと一致していて今の自分たちと比べているのだそうだ。自分たちの国の人もも昔はこのようだったに違いない!という発想なのだそう。もちろん、上のような発言をする人たちが実際そんなことを想像したり思っているとは思いにくいが、どこか考え方の習性としてそういう性質を心のどこかに持ち合わせているのだろう。
 別にこの考え方が悪い!とかいうわけじゃないし別にそんなこと思っていない。むしろ人間って面白いのだなと思った。
 そして、この考え方と反対の考え方が文化相対主義なのだ!!!!!つながった…はず。
野蛮→未開→文明という「進歩」ではなく、それぞれ「相違」があるだけということだ。
 
 旅一つとっても深いんです。

1 件のコメント:

  1. 面白い。
    もともと人類の進化が同一的だと言う考え方が支配的だった(今もある)けど、レヴィ=ストロースによって、同一的じゃないなって考え方が広まってきて、・・・ってつまり何が言いたいかと言うと、興味を持った分野の話だったので楽しんで読むことができました(笑) 直明

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